2021年7月10日土曜日

意識を変えずに動作する 6期1回目 大阪明鏡塾レポート

 6期は、コロナの影響にもかかわらず新しい人も加わり、活気あるいい雰囲気で始まった。清々とした一日が楽しく過ぎた。新しい人と組んだので、先入観なしの感想が聞けて居住まいを正した。

 A)    今回の明鏡塾のワークについて

1) 「背中を触れる」ワーク(21組、臥位)

 今期初めての整体師の方と組んだ。触れられた感想を返すと1回ごとに触れ方が改善していき、始まってものの1時間くらいで触れ方がどんどん良くなり、感性が素晴らしかった。1回目の礼儀正しくて固さを感じるだけのさわり方から、回を重ねるごとにこちらに向かってくるさわり方に変化していった。受けていて、人としての私を触ろうとする意識が感じられ、さすが日野先生とワークショップなどで長年お付き合いがある方だなあ、と思った。ほめるとそこで歩みが止まる危険があるので、あまりほめないようにしているが、多分その辺のこともわかっておられるのでほめてしまった。日野先生から一言「手が働いていない」と厳しい指摘があったが、「これを改善するにはめちゃ時間がかかるで」と苦笑い。

 私に触れられた感想、指摘も鋭かった。私も2ヶ月ぶりだったので、だいぶ頭が騒々しく、手の感覚も鈍かったが、何回かしていると、シーンと意識が静まってきて、周りの人の話し声や動きが鮮明に感じられるようになって、思わず「この静かな良い感じの世界に帰ってきたなあ」と感慨に浸ってしまった。しかしちゃんと相手から「最初はちゃんと触れられていて良い感じだったが、後半(感慨に浸っているとき)は遠く浅く離れていった」との感想をいただき、やはりちゃんと相手に向かわないとあかん、とハッとさせられた。

今回Aさんに対する日野先生のアドバイスが私にもすごく役に立った。「手を背中に当てるとき、背中から5cmくらいの所に手をすっと入れるんやで」と日野先生からアドバイスがあり、Aさんがやってみたが、どこかぎこちない。Aさんとしては、滑走路に着地する飛行機のようにスムーズに手をあてるとイメージしてやってみたそうだが、さまにならない。そこで日野先生から「見たままをしないといけない。自分なりのイメージを作ってやるとうまくいかない。手の着地点を明確に定めて、そこに向かって(体からでなく)手から当てる。」という指摘があった。見たままをする大切さを私も再認識させられた。


2) 「寝ている人を呼吸に合わせて起こす」ワーク (2人1組、仰臥位と坐位)

仰向けに寝ている相手の首の後ろとお腹に手を当て、相手が息を吸おうとする瞬間に合わせて起こすワーク。Nさんは初めてだったが、何回か試行錯誤をされた後、起こすのに成功され、センスの良さが感じられた。とはいうものの日野先生のワークはみんなそれぞれ課題、伸びしろが際限なくある。今回のアドバイスでは、「呼吸を合わせたらダメ。勝手に合うねん」、「腕だけでなく、自分の体全体でいく」、「相手の呼吸の速さで相手の上体を起こす」の三点が印象に残った。相手とピタッと手を合わせ、自分の脳でなく自分の手で相手全体を感じ取り、自分の体全体が相手の呼吸や気配となり、上体を(吸気前の)ここで起こすと意志を発し、相手と一緒に起きる、という練習をした。


3) 「寝ている人の鎖骨から上腕前腕外側をさすって手首を持ち、上体を起こす」ワーク(21組、臥位と立位)

 仰臥位の相手の鎖骨付近を内側から外側へ、そして肩から上肢に沿って丁寧に圧や速度を変えずにさすっていき、手首まで来たら手首を持ち、上体を起こすワーク。

 何度かやっているとまあまあ起こせるようになったが、どこかスムーズでない。意識が途切れ、さする速度や圧が一定でなくなったり、速度や圧が相手と合ってなかったり、手首を持つ圧力が相手の筋肉の緊張度と合わず強く握りすぎたりした。つまり手で相手を感じていない。日野先生からは、「オレがおまえを本当にさわりたい」という欲求がないとダメだ、という根本的なアドバイスがあった。


4) 「相手の両手首を持って相手の肘から肩と動かす」ワーク(21組、坐位)

 相手の手首を両手で持って、手で相手の骨を感じながら肘方向へ少し動かし、肘の関節のゆるみがなくなってコツンと当たるのを感じる。そして手で相手の上腕骨を感じながら上へ動かし、肩関節のゆるみがなくなりコツンと当たるのを感じとる。相手の方は初めてで難しそうだったが、果敢に挑戦されていた。私も手でぼやっとしか感じ取れていず、もっと明確に相手の骨の位置や動き、筋肉の緊張を手で感じたいと思って試行錯誤していた。今から思うに、相手にどこが動かされているか口で教えてもらいながらワークをした方が良かった。


5) 「相手の両手首を持ち、相手の肘、肩を感じながら関節のつまりをとり、外側から内側へ両上肢と上体を固め、相手を倒す」ワーク(21組、坐位)

相手の手首をピタッとにぎった手だけで、相手の上肢や体幹の骨や筋肉の位置や緊張度、動きを感じとり、かつ手の圧力は始終ソフトに保ち、力みを相手に感じさせないまま、自分の体幹の筋肉を使って相手を倒す。まず肘の関節のゆるみを、自分の胸筋を主に動かしてとり、次に自分の肩周辺の筋肉を前→上→背側へと動かして、相手の上腕を下方外側から上方内側へと動かし肩関節を外側から固め、最後に自分の上背部の筋肉を上から下へ力を目一杯入れていって相手の上体を固めたまま相手を倒す。武道の手の内が一つ明かされたようなワークだった。

手はソフトに握ったまま、自分の体幹の筋肉を力いっぱい使って相手を動かすのがかなり難しい。手がどうしても力んでしまい相手に察知されてしまう。受けていると、手がピタッとソフトのまま握られていると相手からの力がこちらの腕や肩にすごく伝わって動かされる。しかし、相手の手が一部でも力んだ瞬間、体幹から伝わる力が抜けて、力の伝導がすごく弱まり、こんなに違ってくるのかと驚きだった。

立って動作をするときには足の裏が地面に接しているが、これも地球は何も言わないだけで、足の全部がピタッと地面に触れていると自分の体幹の力の伝わるが、足の接地面のどこか一部が緊張して踏ん張ったりすると力が逃げると思われる。接点に力みが出ないように練習していきたい。


6) 「一歩前に出ようとするのをオイと言って手で制止する」ワーク(21組、立位)

面と向かい合って立ち、相手が一歩前に踏み出そうとするのを察知して、オイと言って手を上げて相手を止めるワーク。

相手が足を踏み出す意志を発動させるときの意識の変化を感じとり、足を踏み出す動きが見える前にオイと相手に向かって言い、相手に向かって手を上げて動きを制止する。相手の意識の変化を相手と一緒になったかのように目で聴く。オレが相手にはっきり意志を向けて「オイ」と制止する。定番のワークだが、今回もなかなか満足にできなかった。明確に相手を感じ、意志を強く伝えることができるよう繰り返しチャレンジしていくしかない。


7) 「歌を目で聴く」ワーク(全員→21組)

 初めての方だったので、最初歌を目で聴いてもらったとき、眼振が気になった。しかし「歌をまっすぐ目で聴くと目はキョロキョロしなくなるもんやで」とアドバイスしただけで、次から正面をしっかり向いて目で歌を聴かれるようになった。Nさんはカンが良い。歌ったり、歌を目で聴いたりする練習がやりやすかったし、ダメ出しや修正がお互い遠慮なしに出来て気持ちよかった。


8) 「ひとりぼっちのよる」と歌をワンフレーズ歌って、相手を椅子から立ち上げるワーク(21組、立位)

 定番のワーク。オレがお前に歌う、相手の意識を聞く。その意識状態のまま、動作動作で意識を途切れさせないよう同じリズムで、体の一挙手一投足も同じ速さで、相手の両手をもって立ち上げる。相手と呼吸が勝手に合うくらいに相手と関係したまま、一連の動作を完結させるのは難しかった。自分の手足がちぐはぐに動くのも、もどかしかった。相手を感じきって、自分の体全体が相手になりきらないとだめだ。

 何回かやった後で、椅子に座った人に独自に違う歌を頭で歌ってもらい、同じように椅子から立たす、というワークもした。日常では相手は自分のことで頭いっぱいで、だいたいこんな意識状態である。難易度は高くなった。しかし日野先生がデモをされると、椅子に座った人が歌を歌えなくなり、日野先生の動作に吸い寄せられるように椅子から立たされた。相手と本当に関係できるようになるとすごい世界が現れる。

日野先生からのお返事:

「ワンフレーズを歌い、相手を立たせる」

歌の流れに動作を合わせる、と言うのは難しいでしょう。

武道でも舞でも同じで、動かずに手足だけを動かすのは比較的簡単なのですが、その場から離れる、動く、と言う動作が入ると途端に難しくなります。

意識が変わってしまうのでしょうね。

多分ですが、私の場合は、器械体操をしていた事が、相当役立っていると思います。

一般的には、相当難度が高いと思います。

 

B)    今回の明鏡塾を終えて

日野先生のワークは奥が深く「出来た」はない。前より少しましになったかも、くらいがたまにある。もちろん満足できるレベルではない。なので明鏡塾が初めてでも、何期目かでも同じ土俵で切磋琢磨できる。最近の大阪明鏡塾は、本当にいい仲間が集まって、お互い気兼ねなしに研鑽を積むことができるのでありがたい。関西の文化のおかげかもしれない。

今回から「ワークの取り組み方を話し合う」時間ができた。そこであらためて気づいたのは、ワークでは失敗は当たり前で、どうせ無理とあきらめてはだめだということだ。失敗しても、どうせ自分にダメだしをしたり、劣等感を持ったり、恥ずかしく感じて、思考や行動を停止してはいけない。植松努さんのように「だったらこうすれば」と手を替え品を替え、試し続ける。そうすれば失敗は失敗でなくなり、成功の種となる。生命は、困難な状況でも試行錯誤して乗り越えてきた歴史でもあるので、明鏡塾でこのことが要求されるのは、ある意味当然かもしれない。

現状認識、検証はどんどんすべきだが、自分の低いレベルで勝手な解釈をしてはいけない。解釈して納得してしまうと、そこで進歩が止まってしまうし、そもそも日野先生に失礼だ。自分勝手なイメージで認識したり動作をする癖に気づき、見たままをする。そんな訓練を重ねていけば、好き嫌いは関係なく、目の前のやるべきことを適切にやれるようになるのだろう。なかなか難しいことだが、やりがいがある。

0 件のコメント:

コメントを投稿