2020年11月29日日曜日

5期2回目の大阪明鏡塾レポート

 20206月、初夏の蒸し暑い日に行われた。

 名人技を見ただけでいきなり出来るわけがない。しかし心身は素晴らしいもので、勝手に日野先生の澄んだ意識に影響され、ワークを通して感覚が研ぎ澄まされ、前回から1ヶ月で蓄積した心身の鈍さ、汚れがなくなっていった。頭ではなく体を信頼し、感覚に任せていこう。そう決めると難しいワークで煮詰まってもこたえなかった。まだまだ自分の姿は動画で見られたものではなく、いろいろな課題が見つかるが、あきらめず続けていくと着実に進歩する。 

●冒頭の問答で印象に残ったこと:

1)「骨をさぐる」とすでに決めているのだから、あとは手でありのまま感じるだけ。

2)頭はいろいろ思いを張り巡らせるものだが、どんな反応があるのかだけが手がかり。ジャッジしてはだめ。人によって反応は全部違う。1500人うまくいったが1501人目でうまくいかなかったとき、それを例外として扱ってはだめ。まだ甘かったと受け止めて、修正していく。これが永遠に成長していく視点。例外が出ないように、今までうまくいっていたことをぶち壊して作り直すこと。

3)感覚は言葉にすると離れていってしまう。だから絶対患者の言うことをきいたらあかん。誰も自分の思ったことを言葉で本当に表せているか? それは無理。だから相手の言葉でなく顔色などをキャッチして感じること。「意思がちゃんと相手に向かっているか、関係しているか」「私があなたに」ということが大事。

4)ワークでも行為でも、する前は思っててもいい。最中は思ってたらあかん。

 

1) 「背中を触れる」ワーク(21組、臥位)

 今回もOさんと組んだ。最初は、手の震え、手の圧迫の強弱などの乱れがあり、感度も鈍く、相手の情報をぼんやりとしか受け止められなかった。今回は「手首を固定して指先だけを伸ばすストレッチ」を教わり、その後、背中を触れてみると、手がピタッと張り付いて、さびた道具がピカピカになったような感じがした。日野先生曰く「自分の雑念を減らすほど反応が良くなる」と。

2) 「腕相撲でこかす」ワーク (2人1組。床坐位)

前回の復習で、相手の片腕を両手で触れて、骨を手全体で感じ取るワークをした。それから腕相撲でこかすワークになった。日野先生はいとも簡単に相手を倒してみせてくれたが、自分たちにはすごく難しいワークだった。肘の使い方がキモで、相手に合わせたちょうどいい力加減で、相手をだますよう動かす。しかしやってみると自分の肘を挙げていくとき、親指側にどうしても圧がかかり失敗した。肘の一点を動かしながら、相手の手のひらの小指側から親指側へと同じ圧力で支点をずらしていくことが必要な要素か。相手の前腕や骨格の骨を感じとって、骨々をつないだまま同じ力で押していくと相手は抵抗なく倒れる。しかし「体が理解せな意味ない。頭が理解しても仕方ない」だ。頭をアホにしてやってみて、体で試行錯誤して身につけていかないとだめだ。

3) 「痛みは変化する」を体感するワーク(21組、坐位)

 相手に両手で雑巾をしぼるように前腕をねじってもらい、痛みをありのまま感じる。痛みをそのまま感じていると痛みが消えていき、皮膚だけが何カ所かねじられているだけの感じに変化した。ねじっている方も手応えが減っていき、相手の前腕が勝手にゆるんでいくのを感じた。

4) 「背中を、呼気に合わせて押し込み、吸う速度に合わせてフェードアウトするように手を離す」ワーク(21組、臥位)

 背中を触れ、呼気に合わせて背中をぐっと押し、吸気時はその圧を保つ。そして次の呼気にさらに背中をどんどん押し込んでいく。数回して呼気が終わり、吸おうとする時、相手の胸郭が広がる速度に合わせて手をやんわりと離していく。上手にすると相手の息が深く入り、リラックスがもたらされる。これも日野先生は簡単にされるが、自分たちがやると難しい技だ。相手の動きが逐一感じとれない。一息ごとに相手の体の動く場所が変わり、動く大きさ、速度も変わる。頭を空っぽにして、相手の息の動きを一瞬一瞬感じとって自分の体が反応して手の圧力を調節し、吸気の動きに同調し手を離していく。職人技だ。

5) 「坐っている人の上肢の骨を感じ取り、肩までつなげていって倒す」ワーク(21組、坐位)

 相手の前腕を両手で持ち、前腕骨を感じとり、尺骨側をコツンと上腕骨につなげる。ゆるめないようにそのまま橈骨側も上腕骨につなげる。そして上腕骨を腋の下へ繊細に動かして関節の緩みをとり、次に肩上部へ上腕骨を動かし体幹の骨格とつなげる。肘や肩関節を密着させてつなげたまま相手を横に倒す。これも難易度が高く、手の感覚を研ぎ澄ませるいい訓練になった。さらに難度を上げて、相手の手のひらを左右の手で持って同様の操作をするワークもした。みんな四苦八苦しながらワークに取り組んでいた。

「私をどれだけ省エネにして体にどう働きかけるか。体はほんのちょっとしたことでわかる。体は天才だから、体にどんな情報を与えるかで、体は勝手にやってくれる」と教えられた。

6) 「寝ている相手の鎖骨付近から肩上部、上腕外側、肘とさすり、肘を人差し指で回外させるようにさすって、前腕に両手を添え、相手の上体を起こす」ワーク

 まずは前回の復習で、寝ている人にさするような一定の軽い刺激を鎖骨上部から背側、上腕、肘と与えて、前腕を持って起こすワークを行った。意識は相手の体の中をしっかり動かすように働きかけ、手の刺激は一定の速度、強さで動かすように心がけた。起こすとき、自分でまだぎこちなさを感じたが、前より相手を楽に起こせているようで、相手の感想は「まあまあ」といったところだった。

次に31組になり、寝ている人に対して一人は片側で同様のさする刺激を与え、もう一人は対側で両手で寝ている人の片腕を持ち、寝ている人の体の動きの変化を手で感じ取り、相手と一緒になって寝ている人を起こす、というワークをした。

以前は難しすぎて全くできなかったが、今回は起こせるときがあった。頭を空っぽにして、手で受け手の体を感じながら、意識は刺激を与えている相棒となるべく調和を取って起こせるように寝ている人に働きかけた。一度さんと組んで起こせたとき、「今のはナイスフォローでした」と言われたが、自分ではフォローしたつもりはなかったので、内心「そうなん?」と思い、きょとんとしてしまった。日野先生のワークはうまくいったときは自分という我がしていないので、何をやったか自分ではわからず、喜びよりも「ホンマかいな」と驚いてしまう。一方、受けをしていると相手が何をやっているかよく感じることが出来て、「左右バラバラに起こされ、すごい違和感やった」など、ありありと指摘できた。

7) 「立っている相手の横の死角に入り前腕と肘を持って前に歩かせる」ワーク(21組・立位)

 立っている相手の横にスッと入り込み前腕と肘に軽く手を当てる。肘に当てた手で相手の背骨を感じ、自分が相手と一体となって前に行くつもりになるように意思を向けると、相手と一緒に自然に前に行く、というワーク。

 相手の死角にスッと入る。手を相手の前腕と肘に違和感がないように相手にピタッと当てる。手で相手の背骨を感じる。相手と一緒に前に行くように意識を向ける。それらを一つ一つ、これはこれと動作を終わらせつつ、意識は途切れさせないように一連の自然な流れでする。書くと簡単だが、実際にやると自意識、動作に対する自分の意図がぎこちなさを生み出し、意識が途切れ、うまく行かなかった。頭でなく体にまかせてやらないといけないのが難しい。失敗を経験し、ダメな点を把握し、修正していく、ということを重ねるしかない。

 

●今回の明鏡塾を終えて

思いの世界でやると、うまくいかない。感覚の世界でやると、うまくいく。欲求も、思いの世界でやると、無理矢理感、違和感がある欲求となり、義務感、イヤイヤ感が出てきて、うまくいかない。感覚の世界で、なんとなしにしたい、と思ってやるとうまくいく。腕をねじって痛みを感じるワークでも、「やられた!」「やばい」「こわい」などの思いがあると痛みが悪化し、体も緊張し、どんどん窮地に追いやられるが、思いをなくして、感覚の世界に入ると痛みが軽減していってなんてことはなくなる。前から海の生物や野生動物が、恨みつらみなどなくきれいに生きたまま食べられ死んでいくのに感心していたが、感覚の世界にいれば人間にも出来ることかもしれない。死ぬのがこわい、というのは思いの世界の中だけの話なのか。

「自分がこいつに関係する」というのも、まず自分が自分をちゃんと感覚しているという前提がないとだめだ。ちゃんと自分を感覚して、ちゃんと自分の体を動かす。思いの世界で感じ動いていてはダメだ。ちゃんとした感覚器官、運動器官が備わっている生命体であってはじめて、相手とちゃんと関係することができる。そういう生命体は自他の境界がなくなっている。なぜなら相手も自分も一様にちゃんと感じているからだ。

思いは次々と浮かんでは消えるたよりのないものだが、感覚は現実世界でいま、いまの瞬間に感じている確固としたものだ。世間では「自信をもって行動せよ」といわれるが、自信とは思いの世界の夢物語だ。本当は「ちゃんと感じ、現実に即してちゃんと動け」と感覚の世界に身をおくようにすべきだ。日常生活で「思いの世界と感覚の世界、いま、どちらに入っているか」チェックし、感覚の世界に入り体にまかせて行動する、ということを心がけたい。発明などは思いの世界に入らないとできないが、ほどほどにしておきたい。思いにとらわれるなと、禅でも注意を喚起される。

日野先生から教わる技やワークは、自分という自我がやらず、体が感じて勝手にやってしまうので、手応えがない。たまにまぐれでうまくいくと、今まで経験したことのないことに、「なんやこれ?」とびっくりするが、本当に面白い。奥が深い大人の習い事だ。


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